日本からユニコーンを生む土壌を作る。J-Startupだから提供できる価値

日本からユニコーンを生む土壌を作る。J-Startupだから提供できる価値

2018年06月に発表されたJ-Startup。日本から「ユニコーン(※)」を20社生み出すことを目標にした、経済産業省が推進するプロジェクトだ。政府が旗を振るプロジェクトであるにも関わらず、「えこひいきをする」と経済産業大臣が公言したことでも話題になった。

J-Startupの一翼を担うのはJETRO(日本貿易振興機構)、そのメンバーの一人が田中井将人氏だ。スタートアップとしてではなく、政府側の立場としてスタートアップが世界で戦える道を作っている。田中井氏に、JETROがどのように日本のスタートアップエコシステムに貢献しているのかを聞いた。
(※)時価総額10億ドル(約1000億円)超の未上場スタートアップのことで、大きなスタートアップの目安

日本からユニコーンを生む土壌を作る。J-Startupだから提供できる価値

イノベーション・知的財産部スタートアップ支援課
田中井将人氏(Tanakai Masato)

日本貿易振興機構(JETRO)入構後、海外70カ所以上にのぼる機構海外オフィスのITシステム・インフラ構築の企画・運営を行う。その後、三重貿易情報センター、南米コロンビアでの勤務を経て、2016年3月より現職。250社以上の日本発スタートアップ・ベンチャー企業のグローバル展開に携わり、CES、web summit、SLUSH等の世界的カンファレンスにて日本政府パビリオンのプロデュースを行う。官民によるスタートアップ集中支援プログラム『J-Startup』の運営チームメンバー。

J-Startupはスタートアップの海外展開を後押し
――J-Startupの概要について教えて下さい。

約1年前の2018年6月にローンチした国策プロジェクトです。日本には約1万社のスタートアップがいると言われているのですが、その中からグローバルで戦えるユニコーンを創出することが目的で、現在は92社が認定されています。

――発表された当初は大臣が「えこひいき」をすると公言して話題になりました。

とくに日本の政策は、対象を「平等」に扱うことが多いですからね。ただそれだとグローバルで活躍する、突き抜けたスタートアップが出てこないという課題感があるのです。GDPが世界第3位の日本は、国内だけでもそこそこの市場規模があります。そのため国内での活動を前提としているスタートアップが多い印象です。もちろんそれが悪いわけではありません。しかし日本が世界にプレゼンスを発揮するため、日本の産業を作っていくという意味では、やはり世界で戦えるスタートアップの登場を国として支援しなくてはなりません。そういった背景があって、突き抜けたスタートアップを支援するJ-Startupというプロジェクトが始まりました。

――具体的にはどのような活動をしているのでしょう?

わかりやすいところだと、世界各国のイベントに、J-Startupとしてブース出展しました。

世界で活躍するスタートアップをサポートするために90社超を認定したといっても、全社がすでに海外進出しているわけではありません。そこでJ-Startupとしてイベント出展して、スタートアップ数社が同行し、デモを行います。

具体的にはTech in Asia Singapore(シンガポール)、GITEX(ドバイ)、web summit(リスボン)、CES(ラスベガス)、SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト、オースティン)の6箇所。今回の海外出展を機に、はじめて法人として海外進出したという会社もありますし、実際にドイツに法人を設立した会社もあったりと、少しずつ成果が出てきたりしているところです。


SXSW(上)、CES(下)に出展したJ-Startupのブース(image: JETRO)

1年目はとりあえず行動してみてトライアンドエラーをすることが重要な時期でした。これから2年目に突入するので、結果を出していかなくてはらないところです。

――海外イベントに出展した際の、海外からの反応はいかがでしたか?

正直なところ「そもそも日本にスタートアップなんているんだ」という感想が多かったです。トヨタやソニーといった会社は当たり前に知られているのですが、スタートアップが1万社いるというのもびっくりされますし、政府がこんなに後押ししているというのにも驚かれます。日本のスタートアップは、世界ではまだまだベールに包まれてしまっているので、これからプレゼンス向上のために一層頑張らないといけませんね。

――1年かけて世界に日本のスタートアップを紹介してきたことになりますが、日本のスタートアップの強みや特徴はありますか?

「日本にはコア技術がある会社が多い」と話しています。例えばソフトウェア×ハードウェアが組み合わさるところに優位性があると感じます。ビジネスモデルとして、わかりやすいイメージをあげるならば、ソニーのプレイステーション。ゲーム機というハードがあって、ゲームソフトというコンテンツがある。両者を組み合わせるのが日本企業はうまいですよね。ハードは簡単には模倣されにくいというのも、世界で戦うときのポイントになると考えています。

J-Startupの中だと、たとえばGlobal Mobility Serviceは、自動車につけるIoTと金融サービスを組み合わせた会社です。他にもGROOVEXのLOVOTは、表側は可愛い見た目ですが、中には50以上のセンサーが組み込まれ、日々しっかりディープラーニングされます。

――2年目はJ-Startupの活動を拡大させていくのでしょうか。

現在92社のスタートアップがJ-Startup企業として選定されており、増やしていく計画をしています。最近まさに企画と事業戦略を立てています。

とはいえこのJ-Startupの目的はあくまで「グローバルで戦えるユニコーン企業を日本から輩出する」ことです。そのためムリに社数だけを増やすようなことはせず、当初の目的に沿ったスタートアップを世界へと後押ししていきたいと考えています。

社会課題を解決し、産業を作るスタートアップを育てる

――田中井さん個人についても聞かせてください。ここまでお話を聞いて、かなり熱量高くJ-Startupに関わっていると感じました。その活動の源泉はなんでしょうか。

抽象的なことからお話しすると、ちょうど最近平成から令和になりましたが、平成が始まったときと終わったときの、世界の企業時価総額ランキングの面子が全然違うんですよね。平成が始まった当時日本は上位50社のうち実に30社以上を占めていましたが、平成が終わるまでの約30年間を経て、最終的にはトヨタ自動車だけになってしまいました。

では逆にどんな企業が上位にランクインしたかというと、たとえばGAFAM(Google、Amazon、Facebook、Microsoft)といった主にプラットフォーム企業です。彼らは元々スタートアップで、それこそガレージで起業したような方々。なので「新しい産業を作っているのはスタートアップ」と言っても過言ではないんですよね。

元々私がJETROに入構したのは、日本の中小企業がグローバルで産業をつくっていけるようにしたいという思いがあったからです。そういう意味でスタートアップのサポートは、私のミッションとも整合しているところがあって、やりがいと責任感を持って活動しています。

――個人的に気になる分野や会社はありますか?

もちろん仕事上はフラットに接していますが、強いて言うなら社会的なインパクトが強かったり、SDGs(国連が定める持続可能な開発目標)、社会課題を解決するようなサービスは気になりますね。

たとえばWHILLは単にモビリティを作っているだけでなく、移動という概念を変えようとグローバルで戦っています。テラモーターズも電動自動車やドローンから社会課題を解決しようとしていますし、Kyuluxはレアメタルに頼らないディスプレイの開発という破壊的イノベーションに取り組んでいて、気になる会社ではあります。

J-Startupだからこそ提供できる希少価値

――Conectandoの読者には留学経験のある学生が多いのですが、彼らの中には「大企業とスタートアップどちらに就職しようか迷っている」という方が少なくありません。JETROというスタートアップを応援する立場からみて、スタートアップに就職することについてどのように感じますか?

JETRO_田中井さん

スタートアップというのは、何か成し遂げたいミッションがあって、そこに向けて邁進する組織だと思います。そういう意味では「人生にミッションがある」方はスタートアップのほうが向いているかもしれません。

自分が人生で成し遂げたいこととスタートアップのミッションが整合していたら、スタートアップで働くのがいいのではないでしょうか。とくに留学経験がある方は、自分のミッションが見えている方が比較的多いような印象があるので、向いている方も多いかもしれませんね。

とはいえ、学生のうちから自分のミッションが決まっているなんていうのは全体的には少ないはずです。だったら一度大企業に就職して数年働き、自分のミッションが見つかったら起業したり、スタートアップで働くというのもいいんじゃないでしょうか。近年は大企業からスピンアウトする方も増えてきていますよね。

もちろん大企業という選択肢が悪いわけでは決してありません。大企業の中にいないとできない役割もたくさんあります。

――JETROも固い組織という意味では大企業に近いと思うのですが、その中での田中井さんの役割はどういったものでしょう。

JETROの中でことJ-Startupは、半分政府、半分スタートアップに寄った立ち位置です。日本政府側の政策企画や実行をする観点も必要で、一方でスタートアップの現場感や課題もわかっていなければいけません。これができる人材は非常に貴重で、国内でも数えるくらいしかいないはずです。そういう意味では今の私のポジションは自分に向いているなと感じています。これはスタートアップでも、政府でも、大企業でもできない仕事ですね。

――自分と会社にミッションの整合、国とスタートアップの中間の立場、そしてJ-Startupのこと、興味深いお話がたくさんきました。田中井さん、ありがとうございました!

(文・写真:納富隼平

 

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