「タイミングが来たら起業すればいい。武器も知識も持っているから」ーー自信をくれたスタンフォードのラストレクチャー

ストアカ 藤本さん

教えたい人と学びたい人をリアルにつなげるスキルシェアサービス「ストアカ」を運営するストリートアカデミー株式会社。創業者であり代表取締役CEOを務める藤本崇さんは、幼少期から両親の転勤に伴いアメリカで生活しコーネル大学修士課程を、社会人経験を経てスタンフォードMBAを修了しています。通算15年の海外生活経験がキャリアに与えた影響について伺いました。

「右脳で生きたい」超大手外資系企業に勤務しながら映画・料理の専門学校へ そして挫折

――藤本さんは12歳からアメリカで生活し、コーネル大学工学部修士課程を卒業されていますが、一度現地で就職されているんですか?

12年間をアメリカで過ごしグリーンカード(永住権)も持っていたので、そのままアメリカで働こうと思っていました。就活ではボスキャリにも参加し、日系企業から内定をいくつかもらっていたのですが、以前から映画監督になるのが夢だったので、学部卒業後ユニバーサル・スタジオに就職したんです。でも1年も経たないうちにクビになっちゃって(笑)。

ーークビですか!?

上司が変わったときに元々の自分の部下を連れてきて、それまでいた私たちが解雇になったんです。アメリカではよくある話なんですが、日本で聞いたら驚きますよね。でも日系企業の内定を蹴って現地企業に就職したのに解雇されたので、父親からは怒られましたね(笑)。

ストアカ 藤本さん

conectandの播(左)とストアカの藤本さん

解雇されてしまったので第二新卒として就職活動をしたものの、なかなか雇ってもらえない。だったら一回映画を撮ってみようと試みたのですが、それも挫折。結局、学部時代の教授から声をかけてもらって、助けてもらった形で大学院に進学することにしました。

勉強していた分野はオペレーションズリサーチで、その道の大手企業といえばFedEx(フェデックス)。先輩に誘われて同社に入社し、北太平洋地区を飛ぶ貨物機を担当する部署に配属されて日本に帰ってきました、24歳のときです。

ーー12年ぶりの日本での生活は順調でしたか?

給与水準の高い外資系企業で英語を公用語として使いながら、経営企画に近いポジションで順調に昇進していたので、サラリーマン人生としては順調だったと思います。しかし自分の中では「やっぱり映画監督になりたかったな……」という諦められない後悔や、「右脳を使った生き方をしたい」という欲求を諦めきれずにいました。

ーー恵まれた環境にいると思われながら、本人としては満足していなかったんですね。

そこで、退社後に映画や料理の専門学校に通っていたんです。しかも学費が100万円程度かかる、本格的な学校に(笑)。私の悪い癖ですが、気が多い割にやるなら本格的に取り組みたくなってしまうんですよ。

わかってはいたんです、自分に映画や料理の適性がないことは。脚本を書いても誰も賛同してくれなかったり、すぐナイフで手を切ってしまったりと、専門学校でのパフォーマンスはよくありませんでした。普通だったら入学の前に自分の適性やセンスって気が付くものなんですが、自分の場合は適性とやりたいことが乖離していることが多かった。とことんやって挫折して、結果的には右脳で生きることをやめて、左脳、つまり企業で生きることを決心しました。やってみてわかったのは、自分に右脳に憧れがあったものの、左脳人間だということ。挫折して気がつきました。

上司のMBA受験に協力して湧いた、ビジネスへの意欲

ーーFedExで勤務している28歳のときにMBAを受験。合格してスタンフォードMBAに入学されていますね。MBAを受けたきっかけはなんでしたか?

当時親しい上司がMBA受験を考えていて、エッセーの添削を頼まれたことです。さまざまな学校のエッセーを読んでいると、その学校によって理念や方針に差があることもわかってきたので、スタンフォードの公式サイトを覗いてみたんです。

そこには「Change lives. Change organizations. Change the world.」と書いてありました。。まず、「人を変えよ」。次は「組織を変えよ」。そこまでできたら最後に「世界を変えよ」と。

ストアカ 藤本さん

元々右脳で生きたいと思っていたのは、ビジネスは「お金儲けの手段」と感じていた節があったからなんです。

でも、いざ何かをやりたいと思ったときに、人を動かすことができなければ何も実現できないんだと思って。お金儲けではなく世界を変えるためにリーダーシップを学ぶのであれば、すごくかっこいいじゃんって。このスタンフォードの言葉を見たとき、素直に「じゃあ、行こう」って思ったんです。

ーー上司がMBAに行くはずだったのに、自分が心を動かされてしまった、と。

上司と一緒に受験して、二人とも複数校に受かりましたが、上司は第一志望に落ちてしまったんです。仕事の都合上2人同時に同部署から抜けるのは好ましくない。上司とは仲が良かったので二人で相談して、結果的には希望していたスタンフォードに受かった私が渡米することにしました。「スタンフォードに行ったら何が起こるかわからない。人生変わるから。それはお前が行け。俺は残る」って。本当にありがたい話です。

しかし困ったのが金銭的な問題です。元々海外MBAなんて受けるつもりもなかったし、受かるとも思っていなかったので、お金がありませんでした。さらに当時結婚も予定していたんです。夫婦の資産は、自分の貯金400万円と結納金300万円の合計700万円。しかしMBAは2年間で約1500万円もかかります。

どうしようかと思っていたのですが、アメリカに行ったらローンが組めるという話を聞いて、結婚して妻も連れて思い切って渡米したんです。結果的に個人の方から奨学金を得て、事なきを得ました。

ーー奥様も連れて渡米したんですね。スタンフォードのMBA生は起業する方も多いと思いますが、もともと起業に興味はあったのですか?

たしかに起業に関する情報はたくさん入ってきました。しかし奨学金で全額はペイできず、半分は妻からお金を借りているような状況。だから、当時はお金に不安が残る起業は少しも考えていませんでした。それに当時はFacebookも生まれていない、起業ブームが来る前だったのもあって、起業は別の世界の夢物語だと思っていたんですよね。当時のスタンフォードMBA卒業生の進路に関するデータが公表されているんですが、金融機関やコンサルティング業界へ就職する人や事業会社の幹部になる人が多くて、起業する人は本当に少なかったです。

まずは元いた会社より稼げる金融機関などに就職してビジネスの知識を身につけ、その後事業を任されるマネージャーなどの役職につく。そして、家族や応援してくれた人を安心させようと考えていました。

ストアカ 藤本さん

しかし私が在籍していた2005年というのは、あのスティーブ・ジョブズの卒業式での名スピーチ”Stay Hungry, Stay Foolish.”をしたときなんです。なんとも幸いなことに、私もまさにジョブズが登壇したあの現場にいたのですが、目の前で聞くそのスピーチに心を打たれました。

元々影響されやすい自分なので、鏡を見て「毎日自分が一番やりたいことをやっているか? いや、Noだな」、「それに対してアクションを取っているか? それもNoだな」、「その理由は? 自信がないからだな」と自問自答。でもすぐには動けず、予定通り外資系の投資ファンド・カーライルに就職しました。

自信をくれたスタンフォードのラストレクチャー。起業のタイミングは自分で決める

ーーカーライルに勤務したのち、2012年にストアカを起業。きっかけを教えてください。

きっかけは、スティーブ・ジョブズが2011年に亡くなったこと。訃報を見たときになぜか「起業しなきゃな」と思ったんです。しかし「やらなきゃ」を「やろう」にするには、自信が必要で。その自信をもらったのは、スタンフォードを卒業するときにもらった、ある教授の言葉でした。

スタンフォードでは卒業間近になると「ラストレクチャー」といって、自由な授業をする習慣があります。ある教授が意地悪な質問をしました。「この中でマッキンゼーに行くやつは?」などと名門の就職先をいくつか挙げ、7割ほどが手を上げたと思います。すると教授は、「なんで行くんだ!」と。

「君たちは承認欲求が高すぎる。自分は優秀だと証明する必要がまだあるのか。これ以上承認欲求を取りにいく必要は無い。スキルで何かを成し遂げなさい」と。「誰にもできないことをきっとできるはずだから、やるんだ」って。

でも最後に「でもね、いいんだよ」って言うんですよ。彼は続けます。「俺はわかってる。この卒業式の翌日には、君たちの数%しか起業しないかもしれないけれど、この比率は、10年後に60%、20年後には80%になっているんだ。そういうデータをずっと俺は取っている」と。

「歴史は裏切らないから、君たちも起業していく。でもそれぞれのペースやタイミングがある。君たちはオタマジャクシで、自分がカエルになったと思ったら、ピョーンと跳び出すんだ。」「そのときには自信を持って。君たちは必要な武器と知識をすべて身につけているから」って。みんなそのレクチャーに号泣しましたね。

まだ仲間もいないけれど、一人でも何かやってみようかなと思ったときに自信をくれたのが、この教授の言葉だったんです。この言葉に勇気をもらって2012年にストアカを起業するに至りました。

ストアカ 藤本さん

まなびのプラットフォームである「ストアカ」の人気講座からは、書籍化される講師も

起業やスタートアップに関わることはプライスレス

ーー留学生の中には、いわゆる「親ブロック」にぶつかる人も多いのですが、起業するに当たって「嫁ブロック」はあったのでしょうか?

かなりありましたね。妻は大工の娘だったので、自営業の大変さを体感していたんです。なので誓いを立てました。1年以内にVCから出資を受けること。そのときには1人ではなくチームがいること。そして、事業であるインターネットサービスがローンチされていること。これが1年以内に実現できなかったら、サラリーマンに戻ります、と。

そう宣誓して走り出したのですが、あとから聞いたら妻は承認していなかったそうです。私が許可を得たと思い込んでいただけで、「え、いいって言ってないよ?」と思っていたそうです(笑)。

ーー起業したりスタートアップに就職したりするときに、リスクを感じる学生も少なからずいるのですが、怖さはどう克服したらいいと思いますか?

リスクは思っているほどはないのではないでしょうか。例えば、収入が減ることや無給になることをリスクと考えたとき、私のように「1年で辞めて戻ればいいや」と考えると、リスクではなくなるんですよね。むしろその1年で身につけられる経験やスキルは、ものすごく価値がありますよ。

起業せず、スタートアップにジョインするだけでも、部門や会社機能をイチから作ったり、いろいろなことを立場的に考えたりする経験値は、プライスレス。大企業で上司に言われたことをやっているだけでは身につかないものです。

収入が割に合わなければ、1〜2年で大企業に戻ればいいと思います。起業を経験した後に大企業に就職するという流れも、そういった経験を持つ人材を積極登用し出す企業が増えている今であれば、充分可能だと思います。さすがに資金ゼロから立ち上げるのはおすすめしないですけどね。今はシェアリングエコノミーが発達しているので、ストアカやスペースマーケット、メルカリなど、いくつかの収入源を持ちながら起業する人もいますよ。

ストアカ 藤本さん

ーー最後に、留学生や就活生にむけてメッセージをお願いします。

体系的なリーダーシップや傾聴スキル、ダイバーシティのマネージメントなど留学中に学んだことは、FedExやカーライルなどの大手企業では知り得なかったこと。起業してからフル活用しているので、あのときMBAに進んでいてよかったなと思います。

ストアカでは今後、今あるプラットフォームを大切にしつつ、コミュニティービジネスにも進出していきたいと考えています。まだまだ道半ば。お互いがんばっていきましょう!

(文)金指 歩 (取材・編集・写真)納富 隼平

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